流れに逆らわず、流れを読む――堺田分水嶺から紐解くPESTEL分析とOODAループ思考への変革

湧き出した水は、その場で迷うことなく、ほんのわずかな地形の傾きに従い、自然と進む道を決めていきます。これは、私たちのビジネスにもよく似ています。

山形県最上町にある「堺田分水嶺
ここは、日本海と太平洋という、まったく異なる海へ水が流れていく“水の分かれ道”です。


昨日、ドライブで行ってきました。

堺田分水嶺の写真
堺田分水嶺の写真
堺田分水嶺の説明写真
堺田分水嶺の説明写真

外部環境や時代の流れ、顧客の変化――それらに抗うことはできません。
すべての事業において、「流れに逆らえない瞬間」があるのです。

分水嶺に立つ一枚の花びら ― その先にある意思と構え 

右側👉の画像をクリックしてください動画が流れます

一枚の花びらが、春の風に舞い上がった。

空をふわりふわりと漂いながら、
やがて小さな川の水面に、そっと落ちた。

その川の行き先には、分かれ道がある。

左へ行けば、太平洋。

右へ行けば、日本海。

けれど、この花びらには、どちらに行くかを決める力はない。

川の流れ、風の向き、
雨のあとや地形のかたち――


さまざまな自然の影響を受けて、流れは静かに分かれていく。

1枚の花びらの流れ 動画
1枚の花びらの流れ 動画

外部環境の変化を読み取る--PESTEL分析

ビジネスにも、こうした分水嶺のような瞬間がある。
このまま進めば成功するだろう、という確信の中にあっても、ふとした外部環境の変化――今回の風のような出来事が、進む道を大きく変えてしまうことがある。

それは時に、想定外であり、不本意にも感じられる。だが、間違いではない。抗う必要もない。

大切なのは、流れに気づき、外部環境を読むこと。PESTEL分析でいえば、政治・経済・社会・技術・環境・法律など、企業ではどうにもならない外側の力

そして、どちらに転んでも対応できる「構え」をもつこと。
流れに逆らわず、しかし流されもせず、自らの形を保ちながら前に進むこと。


※PEST分析とは、会社の外で起きる変化を「P(政治)」「E(経済)」「S(社会)」「T(技術)」「E(環境)」「L(法律)」の6つに分けて整理する方法です。このPESTEL分析は、もともとPEST分析(政治・経済・社会・技術)から始まりました。時代が進むにつれ、「環境問題」への関心が高まり、PESTE分析へと進化。さらに、法規制やコンプライアンスへの意識の高まりによって、現在のPESTEL分析が生まれたのです。つまりこのフレームは、時代に合わせて「見るべき外の風」が増えてきたことの証でもあります。そして今、私たちはこの“外の風”にどう向き合うかを考えるために、OODAループという考え方と出合います

      項    目    特徴(見るポイント)    中小企業での具体例
P:Politics(政治)国の方針や政策、法律改正、行政支援など、政府の動きが事業にどう影響するかを見る。・最低賃金の引き上げ
・インボイス制度導入
・補助金や助成金制度の変化
・地元自治体の起業支援制度
E:Economy(経済)景気や物価、金利、為替、原材料価格など、経済の動きがビジネスに与える影響を把握する。・仕入れコストの上昇(円安・物価高)
・消費者の節約志向で売上が減少
・金利上昇による融資返済負担の増加
S:Society(社会)人々の価値観や暮らし、人口構成、ライフスタイルの変化を見る。・若者の車離れで中古車販売減
・高齢化による介護・生活支援ニーズ増
・食の多様化(ビーガン、グルテンフリー等)
T:Technology(技術)新しい技術・DXの進化が、業界や働き方、商品・サービスにどう影響するかを見る。・予約アプリ・SNSの導入で販促効率UP
・生成AI(ChatGPT)による業務効率化
E:Environment(環境)気候変動、災害、環境保護意識の高まりが、事業やサプライチェーンにどう影響するかを考える。・プラスチック削減対応(容器の見直し)
・豪雨や台風で農産物仕入れに影響
・脱炭素の流れで省エネ設備導入が求められる
L:Legal(法律)労働法や商法、個人情報保護、特許・知財など、法的な制約や義務を見る。・残業規制や有休取得の義務化
・個人情報保護法に伴う顧客データ管理強化
・著作権や商標の問題への対応

堺田分水嶺における1枚の花びらの現象を、OODAループ思考に基づいて捉え直してみました。

【Observe(観察)】
変化の兆しは、いつも静かに現れます。
水が分かれ始めるように、ビジネスの流れも、ある日ふと違う方向を向き始めます。
今は、その“流れの変わり目”を、しっかりと見極めるときです。

【Orient(状況判断)】
いま、自社が立っている位置が、分水嶺のどちら側に傾きつつあるのか。
数字や現場の空気、取引先の反応など、あらゆる要素を組み合わせて、全体像を捉え直します。

すでに流れは、生まれ始めているのかもしれません。

【Decide(構えを決める)】※再解釈
この局面では、「進む方向を決める」のではなく、
「どちらに流れても耐えうる構えを決める」ことが、意思決定となります。
自ら流れを変えることはできないとしても、流れにうまく乗るための道具や考え方は選べます。

【Act(実行)】
あとは、その構えをもって、一歩ずつ進むだけ。
抗わず、委ねる。でも、備えてあるからこそ、不安は少ない。
変化を受け入れることは、前に進む力そのものです。

OODAループとは、元アメリカ空軍の戦闘機パイロットであり、軍事戦略の理論家でもあったジョン・ボイド大佐によって提唱されました。彼は1970年代、空中戦において生き残るためには、状況を素早く見て、判断し、決断し、行動する――そのループを高速で回し続けることが不可欠だと考えました。この「見る→判断→決断→行動」のサイクルを先に回した者が、敵よりも優位に立つことができるという発想から生まれたのが、OODAループです。

    項     目     特     徴    中小企業での具体例
Observe(観察)外部や内部の変化に気づく。数字、声、空気感などを丁寧に見る売上の落ち込み、SNSのコメント、競合の動きを日々チェックする
Orient(判断)気づいた変化が自社にとってどういう意味を持つか、全体を整理して判断する価格下落が一時的か長期的か、地域の動向を踏まえて見極める
Decide(構えを決める)すぐに方向性を決めるのではなく、状況に備えた構えや選択肢を整えるもしもの売上減に備え、販促策・新商品・コスト管理などを準備する
Act(動く)準備した構えをもとに行動を起こす。結果を次の観察に活かす在庫調整、値下げ、新メニュー投入など、準備した対応策を実行する

今は「正しい答えをじっくり考える」よりも、まず観察し、素早く動いて、柔軟に見直すことが大切な時代です。OODAループは、「考えてから動く」ではなく、「見て、考えて、動きながら考え直す」という、動き続ける経営の型なのです。
 

一枚の花びらが、堺田分水嶺で教えてくれたのは――
経営とは、選ぶことであり、委ねることであり、そして、変化に対してしなやかであることなのかもしれませんね。


経営者の皆さん、もし経営の選択に迷いがあるときは、ぜひ堺田分水嶺を訪れてみてはいかがでしょうか。
ただ静かに、水の流れを眺める――そんな時間が、次の判断を導くヒントになるかもしれません。

堺田分水嶺のすぐそばには「堺田駅」がありますので、電車(現在、大雨の影響で代行バス運行)でも気軽にアクセスできますよ。

陸羽東線「堺田駅」の写真
陸羽東線「堺田駅」の写真
堺田分水嶺から日本海へ 写真
堺田分水嶺から日本海へ 写真
堺田分水嶺から太平洋へ 写真
堺田分水嶺から太平洋へ 写真

【参考:OODAループとPDCAサイクルとの違い】

     項     目     OODAループ     PDCAサイクル
名称Observe → Orient → Decide → ActPlan → Do → Check → Act
意味観察 → 判断 → 構えを決める → 行動計画 → 実行 → 評価 → 改善
主な目的変化にすばやく対応し続ける(機動力と柔軟性)計画通りに改善を回す(安定性と再現性)
向いている場面変化が激しい・不確実な環境(競争、市場変動、非常時など)繰り返しが多く、安定した業務(製造、品質改善など)
スタート地点まず「観察」から始まるまず「計画」から始まる
意思決定の速さ状況を見てすぐに構えを決めて動く計画に基づきじっくり実行し、見直す
柔軟性高い(変化に応じて方向転換しやすい)やや低い(最初の計画に従いがち)
現代の活用分野軍事戦略、スタートアップ経営、マーケティング戦略製造業、品質管理、店舗運営、教育現場など

OODAは「変化の激しい環境」で、素早く柔軟に対応するのに向いています。PDCAは「安定した環境」で、改善をコツコツ積み重ねるのに適しています。つまり、どちらが正しいかではなく、場面によって「使い分ける」ことが賢い経営判断というわけですね。